義経千本桜「鳥居前」|静御前と忠信の出会いの場面をすっきり解説

演目

歌舞伎の三大義太夫狂言の一つ『義経千本桜』の冒頭を飾る「鳥居前」は、義経・静御前・忠信・弁慶という知名度の高い登場人物が一挙に登場し、忠信と弁慶は荒事の衣装を纏うという華やかな演目です。本記事では「鳥居前」の登場人物・あらすじ・みどころについてすっきりと解説していきます。

「鳥居前」の主な登場人物(図解あり)

義経千本桜「鳥居前」のあらすじ

源義経は平氏を滅ぼす大活躍のため、後白河法皇から鼓を賜りました。しかし鼓は打って演奏することから「頼朝を討て」というメッセージも込められていました。兄頼朝と争いたくない義経は「鼓を拒むこともできないが鼓を打つことも決してしない」と心に決めています。しかし頼朝にとっては義経を脅威に感じることが重なったため、義経は謀反の疑いをかけられ都にいられなくなります。

都を離れて伏見稲荷まで来たところで、鎌倉方(頼朝配下の武士達)が襲ってきたので弁慶が退治しました。弁慶は主人のために戦ったのですが、頼朝と争いたくない義経は弁慶を厳しく叱責します。

義経の恋人静御前しずかごぜんが追いかけてきて義経と弁慶の仲裁に入り、弁慶への叱責はおさまりました。静御前は義経を想うあまり「一緒に連れていってほしい」と必死に頼みますが、命を狙われる危険な旅に連れていくことを義経は拒み続けます。今度は弁慶が静御前をなだめて静御前と弁慶はちょうど助け合いになりました。

義経は自分の形見として鼓を静御前に渡しますが、静御前はあきらめきれません。鎌倉方がすぐ近くまで来ているため、四天王はやむを得ず鼓の緒で静御前を木にしばりつけ義経一行は先を急ぎます。

しばりつけられた静御前のところに鎌倉方が来てしまい、静御前と鼓が捕らえられてしまったところに義経の家来佐藤忠信が現れます。忠信は腕っぷしよく大勢の敵を倒し静御前を助け出し、鼓も取り返しました。騒ぎを聞いて義経一行が戻ってきて、忠信が静御前を助けたことを知り、褒美に「源九郎義経」という名前と鎧を授け、静御前の警護を命じます。義経一行は再び西方へ向かい、静御前と忠信は都に帰っていき幕となります。

「鳥居前」は衣装のあでやかさも魅力

「鳥居前」は静御前・弁慶・忠信の三人が一般的にイメージする衣装ではなく姫や荒事の衣装を着ており、背景には鳥居の鮮やかな赤が映えるという視覚的にも美しい演目です。三人の衣装について解説していきます。

  • 静御前は白拍子だが姫の装いをしている
  • 弁慶は言われないと弁慶とわからないかも!?
  • 忠信はカラフルなしめ縄を背負う!?

静御前は白拍子だが姫の装いをしている

静御前は白拍子ですが「鳥居前」では白拍子らしい衣装ではなく赤姫(歌舞伎でお姫様を表す真っ赤な着物姿の姫)の装いをしています。
(以下画像左:白拍子のイメージ)
(以下画像右:赤姫のイメージとして【東京都立中央図書館所蔵】「鎌倉三代記」より時姫)
赤い着物で逃亡の旅に同行するとはかなり目立つのですが、舞台上は明るく彩られ「大切な義経様と共に行きたい」と悲しそうに泣く静御前の美しさをひきたてています。

弁慶は言われないと弁慶とわからないかも!?

弁慶は荒事の衣装でひげも濃く書かれています。髪もライオンの鬣のごとく長いので勧進帳の弁慶を連想しながら舞台上を探していると「この派手な人が弁慶!?」と驚くかもしれません。一方で荒事の衣装の弁慶からはワイルドさが非常によく伝わってきますので、鎌倉方をあっという間に倒したことの説得力が増しているように思います。
(以下画像上:一般的な弁慶のイメージとして【東京都立中央図書館所蔵】「勧進帳」)
(以下画像下:鳥居前の弁慶が見つからず、荒事のイメージとして【東京都立中央図書館所蔵】歌舞伎十八番 暫 鎌倉権五郎景政 九世市川団十郎_新王)

忠信はカラフルなしめ縄を背負う!?

忠信は火炎隈という隈取に仁王襷という荒事感満載の衣装です。仁王襷は紫と白で編まれた縄を背負っているもので美しいです。その力強い姿は静御前を見事に救い出し鼓も取り戻す実力に納得感を与えます。
忠信は「実は狐」という不思議な存在で、これが義経千本桜の後半でとても大切になってきます。荒事の装束からくる力強さは、幕の最後を飾る狐六方でも存分に活かされます。指をたたんで狐の足を表し野生感を炸裂させながら花見をはけていく六方は「狐六方」と呼ばれるもので、「鳥居前」のクライマックスを大いに盛り上げます。「鳥居前」の忠信には歌舞伎ならではの魅力が詰まっていますので、初めてみる歌舞伎に「鳥居前」を選ぶのもおすすめです。
(以下画像:一勇斎国芳『源氏雲浮世絵合 初音』の佐藤忠信
伊勢市. 国立国会図書館デジタルコレクション ttps://dl.ndl.go.jp/pid/1309979)

義経が弁慶を叱責した理由

西方へ逃亡している最中に鎌倉方が襲ってきたら義経の家来としては反射的に対抗するように思います。弁慶はまさしくそうでした。しかし直前に義経は正妻を失っており、これが弁慶への怒りに繋がっています。歌舞伎では義経の正妻きょうきみのくだりはあまり演目にならないのですが、弁慶が気の毒なシーンの補足説明として本節でとりあげます。

義経には卿の君という正妻がいました。彼女は平家の娘でしたので、頼朝が義経に不信感を持つ要因の一つとなってしまいました。
しかし卿の君は平家の養女であり実の父は川越太郎重頼という鎌倉方の人間でした。平家と源氏に挟まれるような自分の境遇が義経を苦境に追い込んでいることを気に病み、卿の君は自害してしまったのです。卿の君との悲しい別れの直後にある義経は、鎌倉方に攻め込まれても対抗せず穏便にかわし頼朝との会話の機会をさぐりたかったのです。そこへ弁慶が即座に退治してしまったので「卿の君の思いが無駄になるではないか!」という怒りだったというわけです。

まとめ

  • 「鳥居前」は義経・静御前・弁慶・忠信という知名度の高い登場人物が集結し赤姫や荒事といった衣装の華やかさも楽しめる演目である。
  • 忠信は「実は狐」という不思議な存在でありその妖しさは火炎隈、仁王襷、狐六方などで巧みに表現され「鳥居前」を盛り上げ、義経千本桜のクライマックスの盛り上がりへの下地も作り上げている。
  • 鎌倉方を退治した弁慶が義経に叱責された理由は、きょうきみの死を無駄にしないためにも鎌倉方とは争わず会話の機会を探りたいという義経の思いがあったため。

「鳥居前」は知名度の高い登場人物が多く魅力満載の演目です。荒事や六方も堪能できるので、初めてみる歌舞伎としてもおすすめです。源氏と平氏の対立と頼朝と義経の対立といった事情が複雑に感じるかもしれませんが、「義経の仲間か敵か」を把握すれば楽しめますので興味を持った方はぜひ一度劇場で見てみてください。この記事が歌舞伎を大切に思う方や興味を持ち始めた方に役立ちましたら嬉しく思います。

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